場面別の決まり文句〈3〉
After you.
お先にどうぞ。
たとえばスーパーのレジに並ぼうとして、偶然ほかの人と同時に列 line につこうとしたとき、この After you. が出てきます。文字通り、「あなたのあとで」ということです。わざわざ口に出さなくても、にっこり微笑んで After you. と自然な態度で表わせるように、普段からの心がけが大切です。
ハワイの人を見ていると、スーパーで並んでいてもそんなにイライラしないようです。前の方の人がレジを済ませるのを静かに待っています。列に並ぶということは、前の人の得た権利 rights を認め、自分の得た権利も認めてもらうということです。横から列に割り込むというのは、その信頼関係をくつがえすものです。
文化の低い国ほど上手に並べないとどこかで読んだことがあります。駅のホームで列を作って並んでいても、電車が来てドアが開きそうになるとわっと崩れてしまうのはどこの国でしょう。私の故郷の名古屋では今でもそうなのでしょうか。
ハワイのバス停 bus stop は路上ということもあり、列を作って並ぶということはないようです。しかし、大体の先着順 first come, first served をお互いに知っていて、やはり乗車口で After you. になります。赤ちゃんを抱いた人やお年寄り、妊娠中の女性、障害のある人はもちろん優先的に乗車します。
ホテルのエレベーターで、ロビーから上階の自室に戻るとき、なかなかエレベーターが来ないことがあります。エレベーターの前は上へ行く人たちでだんだんと混んできます。さあ、ようやくエレベーターのドアが開きました。中から人が降り、そのあとで前の方の人から乗り始めます。
ところが八分目ほどの混み方で、欧米人たちはもう乗りません。にっこり笑って After you. をします。これ以上乗り込むとエレベーターの中が不快になるという判断で遠慮するのです。もちろん重量オーバーのブザーが鳴ったわけではありません。
欧米文化では、知らない人と接触するのは大変に失礼な行為とされます。周囲の人とは常にエアクッションを置くように互いに注意しています。不用意に人に触ったりしたら、即座に I'm sorry. と謝ります。
「ええてえ、まだ乗れるがねえ」なんて言いながらオバサン軍団が乗り込んできて、エレベーター内がギューギュー詰めになってしまうとゲンナリしてしまいます。ハワイに来たらゆったりとした時の流れにまかせたいものです。